過去を目の前に置いて

 

 

 この4月2日(日本時間4月3日)、わたしたちは前教皇ヨハネ・パウロ二世の帰天から一年を迎えました。
 今年は、ヨハネ・パウロ二世が広島から全世界に向けて発信された「平和アピール」の25周年にあたります。今も尚、前教皇の訴えはわたしたちの心に重みをもって響いています。

 

 「平和アピール」の中の「過去を振り返ることは、将来に対する責任をになうことです」ということばは、人口に膾炙するところとなりました。
 通常、英語では、To remember the past is to commit oneself to the future となっています。
 remember が「振り返る」と訳されていますが、少し弱い感じがします。

 

 聖書の翻訳では、「将来」と訳されるヘブライ語は、「背中・背後」の意味をもつ言葉だそうです。(1)われわれとは違って、将来を「背中・背後」にあると考えていたことになります。
 「将来が背中の側にあるというなら、過去は目の前に広がることになろう。」(2)

 

「振り返る」というのは、過去を背にして未来に顔を向けるわれわれの時間把握からの言い方です。ヘブライ人の時間把握に従えば、過去は「振り返る」ものではなく、目の前に展開しているものです。
 ヨハネ・パウロ二世の To remember the past もヘブライ人の時間把握で解釈すると、もっと意味が深まります。
 過去をただ「振り返る」だけでなく、常に目の前に置き、記憶し、思い起こし続け、決して忘れないこと。
 過去の歴史から、「過ちは再び繰り返さない」ための知恵を学習し、新しい未来を築き上げていく原動力をもらうこと。

 

 「平和アピール」の「戦争は人間のしわざです」、「戦争をひきおこすのも人間だが、その同じ人間が、立派に平和を創り出すことむできるのです」と語るヨハネ・パウロ二世のことばをいつも目の前に置くことを誓いたいと思います。

 

 (1)「旧約聖書のこころ」雨宮 慧、女子パウロ会、162頁
 (2)同上 163頁

 

ヨハネ・パウロ二世教皇の列福と取次ぎを願う祈り

三位一体の神よ、
ヨハネ・パウロ二世教皇を教会に与え、父のような
あなたのやさしさ、キリストの十字架の栄光、
愛なる聖霊の輝きを現してくださったことを感謝いたします。
ヨハネ・パウロ二世はあなたの限りないいつくしみと
母マリアの取次ぎにすべてをゆだね、わたしたちに
良い牧者イエスの活き活きした姿を示しました。
そしてあなたとの永遠の交わりに至る道として
毎日のキリスト者の生き方を通して
聖性をめざすことを教えてくれました。
また、自ら「平和の巡礼者」として広島を訪れ
全世界に向け「平和アピール」を宣言し、わたしたちに
「平和の使徒」として歩むことを訴えられました。
み旨ならば、ヨハネ・パウロ二世が聖人の列に加えられ、
その取次ぎによって、わたしたちが願う恵みを
お与えください。  アーメン

主の祈り・聖母マリアへの祈り・栄唱
(2006年 広島司教認可)