小さなバトン
年が改まって、印象的なのは各地の記録的な大雪です。
積った雪
上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。
下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。
中の雪
さみしかろな。
空も地面もみえないで。
金子みすず
雪が高く積もれば積もるほど、春を待つ心が切になります。
主にまかせよ 汝 が 身 を
主はよろこび たすけまさん
しのびて 春 を 待 て
雪はとけて 花は咲かん
あらしにも や み に も
ただまかせよ 汝 が 身 を
(「カトリック聖歌集」658番)
新しい年の初めに、この年を「主にまかせて」、穏やかな心で、Dona nobis pacem
「我らに平和を与え給え」と祈ります。祈りの中で、主がわたしたちが何をなすばきかを示してくださることを期待します。
昨年、広島と長崎は人類史上最初の原子爆弾投下から60年の節目の年を刻みました。
人類の自滅を予告する核兵器の脅威と非人間性を体験した広島と長崎の使命は重大です。核兵器廃絶の願いが実現せず、拡散が懸念される現在の世界ではなおさらです。
被爆体験の継承がより困難になりつつある今だからこそ、使命感に燃える若い世代を勇気づけ育む努力が急務です。
ノーベル賞作家の大江健三郎さんの若い人々へ働きかける姿に励まされます。
大江さんは、「小さめのバトンを何本も渡したい」と「この時代がよくないからと希望をなくすのじゃなく、よくない現実をしっかり見つめて押し返す勇気を持とう、そう言いたい」と熱っぽく語ります。
中学3年生の「人間に本当に平和な世界の実現ができるのか」との問いに、大江さんは答えます。
「私が生きている間に平和な世界はできないと思います。きみたちの働く未来に希望をかけます」と。 ※
今年は、広島教区にとって「平和の巡礼者」故ヨハネ・パウロ二世が平和記念公園で全世界に向けて「平和アピール」を発信して25周年の記念すべき年です。
「全世界の若者たちに訴えます。
友愛と連帯にもとづく新しい未来を、みんなが手をとり合って創りあげていこうではありませんか。
貧窮に苦しむわれわれの兄弟姉妹たちに、わたしたちの手をさしのべましょう。飢えている人には食事をさせ、家のない人には宿を与えて保護し、抑圧されている人を解放し、不正の支配するところには正義をもたらし、武器だけがものを言うところには平和をもたらそうではありませんか。
あなたたちの若々しい心は、善と愛を行うための、思いも及ばぬほど豊かな能力を持っています。その能力をあなたたちの同胞である人類への奉仕に使ってください」(ヨハネ・パウロ二世「平和アピール」)
ヨハネ・パウロ二世の呼びかけを心に留めて、希望を失わずに、「小さなバトン」を手渡していきたいものです。
※「朝日新聞」1月10日 火曜日 1ページ