いのちへのまなざし――――原爆投下と死刑

 

Sr.ヘレン・プレジャン 撮影:広島YMCA 清水さん

 

 5月24日(火)広島で、映画「デッドマン・ウオーキング」の著者シスター・ヘレン・
プレジャンの「共にいのちを考える」という講演会がありました。シスターは「精神的アドバイザー」として死刑囚と交流し、死刑執行に立会い、また被害者と家族の支援活動に献身的な取組みを続けています。

 

 その講演会で強く心に響いたことばがありました。
 「原爆投下も死刑も根底は同じ。同じ思考法に基づいています。」というシスター・プレジャンのことばです。
 「第二次大戦中、アメリカ人は日本人を『非人間 not human』と考えていました。だから、原爆を投下して報復してもいいと・・・死刑についても、犯した罪を見て加害者を『非人間 not human』として、死刑執行によって生命を奪ってもいいと・・・」
 他者を「非人間 not human」と規定し、敵対視することによって、戦争(原爆投下)も死刑も、かけがえのない人間の生命を破壊することを正当化しています。

 

 シスターは、「死刑は、死刑囚の人間としての尊厳を否定し、死刑が執行されても被害者の遺族の心は癒されない」と語り、暴力による解決ではなく、憎しみと報復の連鎖を断ち切ることを熱っぽく訴えました。

 

 シスター・プレジャンは自分の歩みを「素晴らしい旅」と言いますが、始まりはパトリック・ソニエという一人の死刑囚との出会いからでした。数回の文通の後パトリックと面会した時、彼女はショックを受けました。それまで人を殺した人に会ったことはなかったのですが、彼の顔が非常に「人間的 human」だったから。二時間の対話の後、シスター・ヘレンは「私の人生は変った」と感じました。

 

 シスターが紹介した一つのエピソードです。
 「息子が殺されたことに怒りを感じ、加害者の罪をゆるすことができなかった。しかし、私は、あらゆる人間の尊厳を信じ、人間を愛する人間だ。怒りに生き、彼を憎み続けると、私の心を殺してしまうことになり、自分が死んでしまうと思った。」

 

Sr.ヘレン・プレジャン 撮影:広島YMCA 清水さん

 

 「『七の七十倍までもゆるしなさい』(マタイ18・22)というキリストの教えに従うものとして、わたしたちの人間としての成熟と完成は、権利と義務に基づいて互いの基本的な人権を尊ぶということにとどまらず、無償の愛と献身、そして罪人に対するゆるしの中にあると、わたしたちは考えます。ゆるしがたきをゆるし合っていくことから、真の人間の輝きが現れてきます。」(「いのちへのまなざし  二十一世紀への司教団メッセージ」
日本カトリック司教団、カトリック中央協議会、n.70)